2015年12月8日火曜日

採取するなら南極より温泉がいい

大腸菌発現系において目的の蛋白質を in vivo でうまく fold させる方法としては、低温培養がよく知られています。しかし、低温では大腸菌の成長は遅くなってしまいます。その遅くなる原因は、大腸菌の代謝を触媒している酵素の反応速度が単純に低温では遅くなるためだと思っていたのですが、実は他にも理由がある(どころか、否ちがう)と主張する論文がありました。

Manuel Ferrer, Tatyana N Chernikova, Michail M Yakimov, Peter N Golyshin & Kenneth N Timmis (2003) Chaperonins govern growth of Escherichia coli at low temperatures. Nature Biotechnology 21, 1266 - 1267. doi:10.1038/nbt1103-1266

この論文によると、大腸菌のシャペロニン蛋白質 GroEL, GroES の活性が低温では落ちてしまい、大腸菌で翻訳される細胞内蛋白質の多く(30% 程度)がうまく fold しないためだというのです。本当かな?

そこで著者たちは、南極海に泳いでいる好冷菌からとってきたシャペロニンの遺伝子(cpn60, cpn10)で普通の大腸菌を形質転換しました。すると、低温 15 ℃での生育速度が(形質転換なしの時に比べて)3倍も上がったそうです。では試しに大腸菌に普通の GroES-GroEL を大量発現させてみました。しかし、低温での成長速度は低いままで変わらなかったそうです。これは、南極海のシャペロニンが低温でよく働き、大腸菌の蛋白質をよく fold させ成長速度を上げたことを示しています。

本文には次のように書かれています。

"This, in turn, demonstrates that the chaperones of E. coli are the rate-limiting cellular determinant of growth at lower temperatures."

ここで the が使われていることから「大腸菌のこの2つのシャペロニン GroES-GroEL が低温でうまく働かない(15 ℃以下では活性が急に落ちる)ことが、大腸菌が低温で速く成長できない「唯一の!」要因である」と言い切っているようにも読めます。「a ... determinant」ですと、数ある律速要因のうちの一つであるというニュアンスになるのですが。the にしていいのかな?

まあ、このような論文を思わず引いてしまったということは、何を隠そう今まさにそれで悩んでいるということでして。。。しかし、これなら低温での目的蛋白質の大量発現もうまくいくだろうと思った時点で初めて思い出しました。そうだ以前に使ったことがあったっけ? ArcticExpress です。宣伝するつもりはなかったのですが、ここでブログを削除するのも変ですので、このまま submit することにしましょう。

しかし、この菌を採取するには南極に行かないといけないということですね。トロピカルな無人島の温泉へ好熱菌を採取しに行くのと、ペンギンが見守っている中で凍えながら南極海の水を採取するのとではどちらいいでしょう?

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